コラム

二風谷在住の木彫り職人·岡本朋也さんとの対談 ~後編~

二風谷在住の木彫り職人·岡本朋也さんとの対談 ~後編~

前編では、木彫り職人·岡本朋也さんが、札幌大学のウレㇱパクラブ、そして二風谷での伝承者育成事業を経て、木彫りを仕事にするまでの話をお伺いしました。 後編では、岡本さんが実際にどのように作品を作っているのか、もう少し深く掘り下げていきます。 文様は、最初から完成しているわけではない   鳥海: 岡本さんは、作品を作るとき、最初から頭の中に完成した文様のイメージがあるのでしょうか?   岡本: 形を作っている段階から、「ここにはこういう文様を入れよう」というイメージはある程度ありますね。 ただ、最初から全部が決まっているわけではないです。   萱野: 形ができてから、実際にそこへ文様を入れていく?   岡本: そうですね。 例えばイタ(お盆)みたいなものだったら、まず目立つ大きなモレウ(渦巻き)のような部分を考えて、そこから細かいところを付け足していくことが多いです。 実際に描いてみたり、彫ってみたりすると、「ここはもう少し何かあった方がいいな」とか、逆に「これはいらないな」と思うこともあります。 だから、作りながら変わっていきます。   萱野: そこは面白いよね。 アイヌ文様というと、完成した文様が先にあって、それをそのまま木に写して彫っているように思う人もいるかもしれない。 でも実際には、職人によって文様の作り方も違うし、その作品の形によっても変わってくる。   岡本: そうですね。 人によって描き方も彫り方も違います。 僕自身も、いろいろやってみないと分からないと思っているので。 やってみて失敗することもありますけど、その失敗が次の成功につながることもある。...

二風谷在住の木彫り職人·岡本朋也さんとの対談 ~後編~

前編では、木彫り職人·岡本朋也さんが、札幌大学のウレㇱパクラブ、そして二風谷での伝承者育成事業を経て、木彫りを仕事にするまでの話をお伺いしました。 後編では、岡本さんが実際にどのように作品を作っているのか、もう少し深く掘り下げていきます。 文様は、最初から完成しているわけではない   鳥海: 岡本さんは、作品を作るとき、最初から頭の中に完成した文様のイメージがあるのでしょうか?   岡本: 形を作っている段階から、「ここにはこういう文様を入れよう」というイメージはある程度ありますね。 ただ、最初から全部が決まっているわけではないです。   萱野: 形ができてから、実際にそこへ文様を入れていく?   岡本: そうですね。 例えばイタ(お盆)みたいなものだったら、まず目立つ大きなモレウ(渦巻き)のような部分を考えて、そこから細かいところを付け足していくことが多いです。 実際に描いてみたり、彫ってみたりすると、「ここはもう少し何かあった方がいいな」とか、逆に「これはいらないな」と思うこともあります。 だから、作りながら変わっていきます。   萱野: そこは面白いよね。 アイヌ文様というと、完成した文様が先にあって、それをそのまま木に写して彫っているように思う人もいるかもしれない。 でも実際には、職人によって文様の作り方も違うし、その作品の形によっても変わってくる。   岡本: そうですね。 人によって描き方も彫り方も違います。 僕自身も、いろいろやってみないと分からないと思っているので。 やってみて失敗することもありますけど、その失敗が次の成功につながることもある。...

二風谷在住の木彫り職人・岡本朋也さんとの対談 ~前編~

二風谷在住の木彫り職人・岡本朋也さんとの対談 ~前編~

二風谷ワークスでは、商品の企画や製作を通して、さまざまなアイヌの作り手と一緒に仕事をしています。 今回お話を聞いたのは、木彫り職人の岡本朋也さん。 現在29歳。若い世代の木彫り職人として活動する岡本さんは、どのようにアイヌ文化を学び、木彫りを仕事にするようになったのでしょうか。 二風谷ワークスの萱野、鳥海と話しました。 浦河から札幌、そして二風谷へ 萱野: まず岡本君、自己紹介をお願いします。 岡本: 北海道の浦河町出身の岡本朋也です。29歳です。 今は「Ainu Crafts pewre」で、木彫りをメインに活動しています。 木彫りだけではなく、アイヌ文様のデザインをしたり、ほかの地域へ行って木彫りの講師をしたりもしています。 萱野: 二風谷ワークスとの仕事でいうと、ramguのカッティングプレートと鍋敷きの木彫りを担当してもらっています。 それから、岡本君がデザインした文様をレーザー彫刻したマグも商品として販売しています。 今回は、普段商品を見てくれている皆さんにも、まず「岡本朋也という人がどういう人なのか」を知ってもらえればと思っています。 そもそも、木彫りを始めたきっかけは何だったんですか? 岡本: 大学生のときですね。 札幌大学のウレㇱパクラブで、本格的にアイヌ文化を学び始めたのがきっかけです。 そこではアイヌ語だったり、踊りだったりを中心にやっていました。 もともとものづくりが好きで、自分で何かを作るのも好きでしたし、人が作ったものを見るのも好きだったんです。 その中で、アイヌ文化の木彫りや工芸をやりたいと思うようになりました。 ただ、大学ではなかなか実際に木彫りをする機会がなくて。4年生のときに有志で何人か集まって、見よう見まねで彫ったのが最初です。 そこから、もっと木彫りについて知りたいと思うようになりました。 札幌大学ウレㇱパクラブとは 萱野: 今出てきた「ウレㇱパクラブ」について、知らない人もいると思うので少し説明します。 札幌大学のウレㇱパクラブは、大学に通いながらアイヌ語や文化など、アイヌ文化について幅広く学ぶことのできる取り組みです。...

二風谷在住の木彫り職人・岡本朋也さんとの対談 ~前編~

二風谷ワークスでは、商品の企画や製作を通して、さまざまなアイヌの作り手と一緒に仕事をしています。 今回お話を聞いたのは、木彫り職人の岡本朋也さん。 現在29歳。若い世代の木彫り職人として活動する岡本さんは、どのようにアイヌ文化を学び、木彫りを仕事にするようになったのでしょうか。 二風谷ワークスの萱野、鳥海と話しました。 浦河から札幌、そして二風谷へ 萱野: まず岡本君、自己紹介をお願いします。 岡本: 北海道の浦河町出身の岡本朋也です。29歳です。 今は「Ainu Crafts pewre」で、木彫りをメインに活動しています。 木彫りだけではなく、アイヌ文様のデザインをしたり、ほかの地域へ行って木彫りの講師をしたりもしています。 萱野: 二風谷ワークスとの仕事でいうと、ramguのカッティングプレートと鍋敷きの木彫りを担当してもらっています。 それから、岡本君がデザインした文様をレーザー彫刻したマグも商品として販売しています。 今回は、普段商品を見てくれている皆さんにも、まず「岡本朋也という人がどういう人なのか」を知ってもらえればと思っています。 そもそも、木彫りを始めたきっかけは何だったんですか? 岡本: 大学生のときですね。 札幌大学のウレㇱパクラブで、本格的にアイヌ文化を学び始めたのがきっかけです。 そこではアイヌ語だったり、踊りだったりを中心にやっていました。 もともとものづくりが好きで、自分で何かを作るのも好きでしたし、人が作ったものを見るのも好きだったんです。 その中で、アイヌ文化の木彫りや工芸をやりたいと思うようになりました。 ただ、大学ではなかなか実際に木彫りをする機会がなくて。4年生のときに有志で何人か集まって、見よう見まねで彫ったのが最初です。 そこから、もっと木彫りについて知りたいと思うようになりました。 札幌大学ウレㇱパクラブとは 萱野: 今出てきた「ウレㇱパクラブ」について、知らない人もいると思うので少し説明します。 札幌大学のウレㇱパクラブは、大学に通いながらアイヌ語や文化など、アイヌ文化について幅広く学ぶことのできる取り組みです。...

二風谷ワークスが商品名に「サケヘ」を使う理由

二風谷ワークスが商品名に「サケヘ」を使う理由

鳥海: 今回、新商品のてぬぐいを作るタイミングで、商品名の付け方のルールも一新し、「アイテム名+柄名」という形式で統一しました。 これまでは、アイヌの伝統的な衣装をモチーフにした商品には、その衣装の名前を使うことが多かったですよね。 萱野: そうですね。例えばチカㇻカㇻペやカパラミㇷ゚ですね。 鳥海: 最初はそれでも良かったのですが、だんだん商品が増えてくると、同じチカㇻカㇻペをモチーフにしていてもデザインはそれぞれ違うので、全部に「チカㇻカㇻペ」と付けると区別しにくくなってきたんです。 そこで、デザインごとに固有の名前を付けようという話になりました。   文様に「これは○○の柄」と名前を付ける難しさ 萱野: 最初は、文様そのものの特徴をアイヌ語で表して名前にしようとも考えたんです。 でも、やってみるとすごく難しい。 アイヌ文様って、いくつかの文様の要素があって、それをどう組み合わせるかによって表現していくものですよね。 「この形だから○○」と、一つの意味に結びつけて固有名詞にするのは違うんじゃないかと思ったんです。 それに、チカㇻカㇻペやカパラミㇷ゚という名前も、僕は文様そのものの名前というより、技法による違いを表している部分が大きいと考えています。 例えばチカㇻカㇻペなら、テープ状の布を生地の上に縫い付け、そこに刺繍をする。カパラミㇷ゚なら、文様の形に切った布を重ねて縫い付ける。 もちろん技法と見た目は結びついているので、文様の種類のようにも見えます。でも同じチカㇻカㇻペの中にも、いろいろな文様があって当然なんですよね。 鳥海: だからといって「チカㇻカㇻペ01、02、03」にするのも味気ないですし(笑)。 萱野: そうなんですよ(笑)。そのうち自分たちでも「02ってどれだっけ?」となる。 じゃあ一つひとつに固有の名前を付けよう、と。 ただ、文様を見て「これは○○に見えるから、そのアイヌ語を名前にしよう」というやり方も、いずれ限界が来ると思ったんです。 そこで、文様の形とはいったん離れて、アイヌ文化の中にある言葉から名前を探すことにしました。   「rittunna(リットゥンナ)」は雷のカムイの物語に登場する言葉 鳥海: そこで今回のてぬぐいに付いた名前が「rittunna(リットゥンナ)」ですね。 萱野:...

二風谷ワークスが商品名に「サケヘ」を使う理由

鳥海: 今回、新商品のてぬぐいを作るタイミングで、商品名の付け方のルールも一新し、「アイテム名+柄名」という形式で統一しました。 これまでは、アイヌの伝統的な衣装をモチーフにした商品には、その衣装の名前を使うことが多かったですよね。 萱野: そうですね。例えばチカㇻカㇻペやカパラミㇷ゚ですね。 鳥海: 最初はそれでも良かったのですが、だんだん商品が増えてくると、同じチカㇻカㇻペをモチーフにしていてもデザインはそれぞれ違うので、全部に「チカㇻカㇻペ」と付けると区別しにくくなってきたんです。 そこで、デザインごとに固有の名前を付けようという話になりました。   文様に「これは○○の柄」と名前を付ける難しさ 萱野: 最初は、文様そのものの特徴をアイヌ語で表して名前にしようとも考えたんです。 でも、やってみるとすごく難しい。 アイヌ文様って、いくつかの文様の要素があって、それをどう組み合わせるかによって表現していくものですよね。 「この形だから○○」と、一つの意味に結びつけて固有名詞にするのは違うんじゃないかと思ったんです。 それに、チカㇻカㇻペやカパラミㇷ゚という名前も、僕は文様そのものの名前というより、技法による違いを表している部分が大きいと考えています。 例えばチカㇻカㇻペなら、テープ状の布を生地の上に縫い付け、そこに刺繍をする。カパラミㇷ゚なら、文様の形に切った布を重ねて縫い付ける。 もちろん技法と見た目は結びついているので、文様の種類のようにも見えます。でも同じチカㇻカㇻペの中にも、いろいろな文様があって当然なんですよね。 鳥海: だからといって「チカㇻカㇻペ01、02、03」にするのも味気ないですし(笑)。 萱野: そうなんですよ(笑)。そのうち自分たちでも「02ってどれだっけ?」となる。 じゃあ一つひとつに固有の名前を付けよう、と。 ただ、文様を見て「これは○○に見えるから、そのアイヌ語を名前にしよう」というやり方も、いずれ限界が来ると思ったんです。 そこで、文様の形とはいったん離れて、アイヌ文化の中にある言葉から名前を探すことにしました。   「rittunna(リットゥンナ)」は雷のカムイの物語に登場する言葉 鳥海: そこで今回のてぬぐいに付いた名前が「rittunna(リットゥンナ)」ですね。 萱野:...

てぬぐいができるまで

てぬぐいができるまで

鳥海: 今年のチプサンケも終わりましたね。 二風谷ワークスでは2023年から出店して、今年で4年目でした。 萱野: チプサンケは、二風谷で毎年行われている舟おろしのお祭りですね。 もともとは新しい舟を初めて水に浮かべる時に行う儀式ですが、舟を作る機会が減り、舟を操る技術も伝えられなくなっていく中で、祖父の萱野茂たちが文化を残していくために復活させ、毎年の行事として続いてきました。 二風谷で行われるアイヌ文化に関係する催しの中でも特に多くの人が訪れますし、毎年楽しみに来てくれる方もいます。 そこで二風谷ワークスでも、毎年デザインを変えたチプサンケTシャツを作っています。 鳥海: 去年はTシャツのほかに、今治タオルシリーズのハンカチやフェイスタオルも持っていきました。 その時に「もう少し気軽に買えて、お土産にも選びやすいものが欲しいよね」という話になって、そこで今年、新しく作ったのがてぬぐいです。 実際に販売してみたら、想像以上に好評でした。 萱野: 本当に人気でしたね。 特にアイヌ文様を使った「rittunna(リットゥンナ)」は、Instagramで紹介した時から反応が良くて。 イベント当日もたくさん買っていただきましたし、その後オンラインショップでもあっという間に在庫がなくなりました。 鳥海: 一分刻みで注文が入っていくのを初めて見ました(笑)。 「こんなてぬぐいが欲しかった!」というお声をいただいて、世の中の需要にうまくはまったのかなと思います。 登山で使ってみて、「これは作りたい」と思った   萱野: そもそも鳥海さんは、前からてぬぐいを作りたかったんですよね。 鳥海: そうなんです。 数年前から夏に北海道の山を登るようになったのですが、登山でてぬぐいがすごく重宝するんですよ。 薄くて、汗を拭いてもすぐ乾くし、帽子の下からかぶれば顔の横の日除けにもなりますし、実際に山へ行くと、てぬぐいを使っている人が本当に多いんです。 以前からお客様にも「アウトドアで使える薄手のタオルが欲しい」という声をいただいていたので、二風谷ワークスで作るなら、まだやったことのないてぬぐいがいいんじゃないかと。 萱野: 今治タオルとはまた用途が違いますよね。...

てぬぐいができるまで

鳥海: 今年のチプサンケも終わりましたね。 二風谷ワークスでは2023年から出店して、今年で4年目でした。 萱野: チプサンケは、二風谷で毎年行われている舟おろしのお祭りですね。 もともとは新しい舟を初めて水に浮かべる時に行う儀式ですが、舟を作る機会が減り、舟を操る技術も伝えられなくなっていく中で、祖父の萱野茂たちが文化を残していくために復活させ、毎年の行事として続いてきました。 二風谷で行われるアイヌ文化に関係する催しの中でも特に多くの人が訪れますし、毎年楽しみに来てくれる方もいます。 そこで二風谷ワークスでも、毎年デザインを変えたチプサンケTシャツを作っています。 鳥海: 去年はTシャツのほかに、今治タオルシリーズのハンカチやフェイスタオルも持っていきました。 その時に「もう少し気軽に買えて、お土産にも選びやすいものが欲しいよね」という話になって、そこで今年、新しく作ったのがてぬぐいです。 実際に販売してみたら、想像以上に好評でした。 萱野: 本当に人気でしたね。 特にアイヌ文様を使った「rittunna(リットゥンナ)」は、Instagramで紹介した時から反応が良くて。 イベント当日もたくさん買っていただきましたし、その後オンラインショップでもあっという間に在庫がなくなりました。 鳥海: 一分刻みで注文が入っていくのを初めて見ました(笑)。 「こんなてぬぐいが欲しかった!」というお声をいただいて、世の中の需要にうまくはまったのかなと思います。 登山で使ってみて、「これは作りたい」と思った   萱野: そもそも鳥海さんは、前からてぬぐいを作りたかったんですよね。 鳥海: そうなんです。 数年前から夏に北海道の山を登るようになったのですが、登山でてぬぐいがすごく重宝するんですよ。 薄くて、汗を拭いてもすぐ乾くし、帽子の下からかぶれば顔の横の日除けにもなりますし、実際に山へ行くと、てぬぐいを使っている人が本当に多いんです。 以前からお客様にも「アウトドアで使える薄手のタオルが欲しい」という声をいただいていたので、二風谷ワークスで作るなら、まだやったことのないてぬぐいがいいんじゃないかと。 萱野: 今治タオルとはまた用途が違いますよね。...

「てぬぐい ainu mingu」に描かれているアイヌの民具について

「てぬぐい ainu mingu」に描かれているアイヌの民具について

アイヌの伝統的な考えでは、自然界のあらゆるものには魂が宿っており、カムイ(神)と認識されていました。 日常的に使う道具にさえ、彫刻や刺繍で丁寧に文様が施されているのは、人間が作った道具であっても魂が宿ると考え、大切に扱うアイヌの豊かな精神性を表していると私たちは考えます。 ここでは「てぬぐい ainu mingu」に描かれている伝統的なアイヌの民具について一つひとつ紹介していきます。 民具の解説は、萱野茂著『アイヌの民具』(1978年初版発行)に記された内容をもとに、要約・編集して掲載しています。   ① アットゥㇱ / attus アットゥㇱは、アッニ(オヒョウ)の樹皮の繊維から糸を作り、それを織って作った衣服です。古くは鹿などの動物の毛皮を使う方法もありましたが、アットゥㇱを使うようになってからは、木綿や絹糸を手に入れやすくなり、それらを衣服の刺繍に使うようにもなりました。織り方や刺繍、仕立てにはさまざまな工夫があり、日常着として用いられました。 出典:萱野茂『アイヌの民具』59–60頁   ② シトペラ / sitopera シトペラは、大きな団子を切ったり、大きな鍋の中から団子をすくったりするための道具です。トペニ(イタヤ)やプㇱニ(ホオ)など、弾力性があり、臭いのつきにくい木が使われました。厚さは1cm程度、長さは50cm以上にもなり、柄の部分は持ちやすいように細く削り、ヘラ全体に思い思いの彫刻を施します。熊送りの儀式や祝い事など大きな行事が行われる際にアチャシトやシトニンといった団子がつくられ、シトペラが使われました。 出典:萱野茂『アイヌの民具』221–223頁 ③ マキリ / makiri マキリというのは小刀の総称ですが、山行きのときにいちばん使いやすいのがマキリでした。刃は少し反りがあり、両刃です。マキリのさやは、トペニ(イタヤ)やネㇱコ(クルミ)などの木を削って作ります。直径十五センチくらいの太さの丸太を二つ割りにし、作るさやの大きさに合わせて切ります。思い思いの彫刻を施し、腰に下げて大切に持ち歩きました。木を彫ったり、皮をはいだり、炊事に使ったりと、何にでも使える万能な道具でした。 出典:萱野茂『アイヌの民具』27頁 ④ トゥキ / tuki・オユㇱペ /...

「てぬぐい ainu mingu」に描かれているアイヌの民具について

アイヌの伝統的な考えでは、自然界のあらゆるものには魂が宿っており、カムイ(神)と認識されていました。 日常的に使う道具にさえ、彫刻や刺繍で丁寧に文様が施されているのは、人間が作った道具であっても魂が宿ると考え、大切に扱うアイヌの豊かな精神性を表していると私たちは考えます。 ここでは「てぬぐい ainu mingu」に描かれている伝統的なアイヌの民具について一つひとつ紹介していきます。 民具の解説は、萱野茂著『アイヌの民具』(1978年初版発行)に記された内容をもとに、要約・編集して掲載しています。   ① アットゥㇱ / attus アットゥㇱは、アッニ(オヒョウ)の樹皮の繊維から糸を作り、それを織って作った衣服です。古くは鹿などの動物の毛皮を使う方法もありましたが、アットゥㇱを使うようになってからは、木綿や絹糸を手に入れやすくなり、それらを衣服の刺繍に使うようにもなりました。織り方や刺繍、仕立てにはさまざまな工夫があり、日常着として用いられました。 出典:萱野茂『アイヌの民具』59–60頁   ② シトペラ / sitopera シトペラは、大きな団子を切ったり、大きな鍋の中から団子をすくったりするための道具です。トペニ(イタヤ)やプㇱニ(ホオ)など、弾力性があり、臭いのつきにくい木が使われました。厚さは1cm程度、長さは50cm以上にもなり、柄の部分は持ちやすいように細く削り、ヘラ全体に思い思いの彫刻を施します。熊送りの儀式や祝い事など大きな行事が行われる際にアチャシトやシトニンといった団子がつくられ、シトペラが使われました。 出典:萱野茂『アイヌの民具』221–223頁 ③ マキリ / makiri マキリというのは小刀の総称ですが、山行きのときにいちばん使いやすいのがマキリでした。刃は少し反りがあり、両刃です。マキリのさやは、トペニ(イタヤ)やネㇱコ(クルミ)などの木を削って作ります。直径十五センチくらいの太さの丸太を二つ割りにし、作るさやの大きさに合わせて切ります。思い思いの彫刻を施し、腰に下げて大切に持ち歩きました。木を彫ったり、皮をはいだり、炊事に使ったりと、何にでも使える万能な道具でした。 出典:萱野茂『アイヌの民具』27頁 ④ トゥキ / tuki・オユㇱペ /...

アイヌ文化を使うなら、アイヌも一緒に。─文化の盗用について考える

アイヌ文化を使うなら、アイヌも一緒に。─文化の盗用について考える

大切なのは、「何を使うか」ではなく「誰が使うか」   鳥海: 最近、「アイヌ文様を使った商品を作りたい」「アイヌ語をブランド名に使いたい」という相談をいただくことが増えてきました。 その一方で、「文化の盗用になってしまうのではないか」と心配される方も多いんです。 中には、「善意で文化を広めようとしているだけなのに、それもダメなんですか?」という質問もあります。 今日は、そのあたりをもう少し掘り下げてお話ししたいと思います。 萱野: まず最初に言っておきたいのは、僕は「アイヌ文化を使うこと自体が悪い」とは思っていません。 文化は昔から、お互いに影響を受けながら発展してきたものです。 だから、「他の文化を取り入れる」という行為そのものを否定するつもりはありません。 でも、「文化の盗用」という話になると、一番大事なのは何を使うかではなく、誰が使うかなんです。 ここを抜いてしまうと、この問題は見えてきません。 鳥海: 「誰が使うか」が、一番重要なんですね。 萱野: そうです。 今、Googleで「文化の盗用」と検索すると、「歴史的な背景や敬意を欠いたまま、支配的な立場にある側が少数派の文化を利益やファッションとして利用すること」といった説明が出てきます。 結局、問題になるのは、相対的に強い立場にある側が、弱い立場に置かれてきた人たちの文化を使うことなんです。 例えば、日本でジーンズを作っても、ほとんど誰も問題にはしません。 アメリカという文化は、経済的にも文化的にも大きな力を持っています。 その文化を日本人が取り入れたからといって、「搾取だ」とはなりにくい。 でも逆の立場になると話は変わります。 以前、アメリカの有名人が「Kimono」という名前で下着ブランドを立ち上げようとして、大きな批判を受けたことがありました。 それは、単に「着物」という言葉を使ったからではありません。 文化的にも経済的にも大きな影響力を持つ側が、日本の伝統文化を自分たちの商品として利用したことに、多くの人が違和感を覚えたからです。 つまり、同じ行為に見えても、立場が違えば意味は変わる。 文化の盗用というのは、そういう問題なんです。 鳥海: それをアイヌ文化に当てはめると、どうなりますか。...

アイヌ文化を使うなら、アイヌも一緒に。─文化の盗用について考える

大切なのは、「何を使うか」ではなく「誰が使うか」   鳥海: 最近、「アイヌ文様を使った商品を作りたい」「アイヌ語をブランド名に使いたい」という相談をいただくことが増えてきました。 その一方で、「文化の盗用になってしまうのではないか」と心配される方も多いんです。 中には、「善意で文化を広めようとしているだけなのに、それもダメなんですか?」という質問もあります。 今日は、そのあたりをもう少し掘り下げてお話ししたいと思います。 萱野: まず最初に言っておきたいのは、僕は「アイヌ文化を使うこと自体が悪い」とは思っていません。 文化は昔から、お互いに影響を受けながら発展してきたものです。 だから、「他の文化を取り入れる」という行為そのものを否定するつもりはありません。 でも、「文化の盗用」という話になると、一番大事なのは何を使うかではなく、誰が使うかなんです。 ここを抜いてしまうと、この問題は見えてきません。 鳥海: 「誰が使うか」が、一番重要なんですね。 萱野: そうです。 今、Googleで「文化の盗用」と検索すると、「歴史的な背景や敬意を欠いたまま、支配的な立場にある側が少数派の文化を利益やファッションとして利用すること」といった説明が出てきます。 結局、問題になるのは、相対的に強い立場にある側が、弱い立場に置かれてきた人たちの文化を使うことなんです。 例えば、日本でジーンズを作っても、ほとんど誰も問題にはしません。 アメリカという文化は、経済的にも文化的にも大きな力を持っています。 その文化を日本人が取り入れたからといって、「搾取だ」とはなりにくい。 でも逆の立場になると話は変わります。 以前、アメリカの有名人が「Kimono」という名前で下着ブランドを立ち上げようとして、大きな批判を受けたことがありました。 それは、単に「着物」という言葉を使ったからではありません。 文化的にも経済的にも大きな影響力を持つ側が、日本の伝統文化を自分たちの商品として利用したことに、多くの人が違和感を覚えたからです。 つまり、同じ行為に見えても、立場が違えば意味は変わる。 文化の盗用というのは、そういう問題なんです。 鳥海: それをアイヌ文化に当てはめると、どうなりますか。...