「てぬぐい ainu mingu」に描かれているアイヌの民具について

「てぬぐい ainu mingu」に描かれているアイヌの民具について

アイヌの伝統的な考えでは、自然界のあらゆるものには魂が宿っており、カムイ(神)と認識されていました。

日常的に使う道具にさえ、彫刻や刺繍で丁寧に文様が施されているのは、人間が作った道具であっても魂が宿ると考え、大切に扱うアイヌの豊かな精神性を表していると私たちは考えます。

ここでは「てぬぐい ainu mingu」に描かれている伝統的なアイヌの民具について一つひとつ紹介していきます。

民具の解説は、萱野茂著『アイヌの民具』(1978年初版発行)に記された内容をもとに、要約・編集して掲載しています。

 

アットゥㇱ / attus

アットゥㇱは、アッニ(オヒョウ)の樹皮の繊維から糸を作り、それを織って作った衣服です。古くは鹿などの動物の毛皮を使う方法もありましたが、アットゥㇱを使うようになってからは、木綿や絹糸を手に入れやすくなり、それらを衣服の刺繍に使うようにもなりました。織り方や刺繍、仕立てにはさまざまな工夫があり、日常着として用いられました。

出典:萱野茂『アイヌの民具』59–60


 

シトペラ / sitopera

シトペラは、大きな団子を切ったり、大きな鍋の中から団子をすくったりするための道具です。トペニ(イタヤ)やプㇱニ(ホオ)など、弾力性があり、臭いのつきにくい木が使われました。厚さは1cm程度、長さは50cm以上にもなり、柄の部分は持ちやすいように細く削り、ヘラ全体に思い思いの彫刻します。熊送りの儀式や祝い事など大きな行事が行われる際にアチャシトやシトニンといった団子がつくられ、シトペラが使われました。

出典:萱野茂『アイヌの民具』221–223



マキリ / makiri

マキリというのは小刀の総称ですが、山行きのときにいちばん使いやすいのがマキリでした。刃は少し反りがあり、両刃です。マキリのさやは、トペニ(イタヤ)やネㇱコ(クルミ)などの木を削って作ります。直径十五センチくらいの太さの丸太を二つ割りにし、作るさやの大きさに合わせて切ります。思い思いの彫刻を施し、腰に下げて大切に持ち歩きました。木を彫ったり、皮をはいだり、炊事に使ったりと、何にでも使える万能な道具でした。

出典:萱野茂『アイヌの民具』27



トゥキ / tuki・オユㇱペ / oyuspe

トゥキは杯の総称で、形や用途によっていろいろな種類がありますが、どれも漆塗りの深めで大ぶりな杯で、オユシペ(受け台)がついています。主に神に御神酒を捧げてお祈りするときの酒器として使われました。木彫りや漆塗りの装飾が施されたものもあります。

出典:萱野茂『アイヌの民具』239


 

キサㇻリ / kisarri

キサㇻリは、子どもを驚かすための手作りのお化けです。鎌の刃のところに黒い布を巻き、くちばしのように見せて、さらに赤い布を巻きつけ耳を作ります。夜泣きしてやまない子どもがいると、窓からわざとらしくこのキサㇻリを見せ、強く息を出して「ぐふー、ぐふー」と音を出すと、子どもはびっくりして泣きやんだといいます。鎌は魔物でさえも恐ろしがる刃物とされており、子どもばかりでなく大人でさえも驚くと言われていました。

出典:萱野茂『アイヌの民具』256


 

タマサイ / tamasay

タマサイは、女性が神まつりや人が死んだときなどに首から胸にかけて身につける首飾りです。母から娘へ、姑から嫁へと伝えられる女性の宝物でもあります。真ん中の金属製のシトキと呼ばれるパーツの左右に、大きなガラス玉を連ね、さらに上に向かって紐が2本、3本と分かれて小さな玉が連なり、この紐の数が多いほど上等なものとされていました。

出典:萱野茂『アイヌの民具』78


 

チㇱポ / cispo

チㇱポは針を刺しておく布紐と、その布紐を納めておく筒を持つ、針仕事に便利な道具です。昔のアイヌの女性にとって、針は非常に希少で大切なもので、肌身離さず持ち歩いていました。チㇱポに針を刺しておくと、針をなくす心配がなく、必要なときにすぐ取り出すことができます。筒の方はラスパ(ノリウツギ)や、ツルやキツネなどの小動物の骨で作られ、銅貨に布紐を通し、さらにその布紐を筒に通して作られています。

出典:萱野茂『アイヌの民具』51

 

 

ヌイトサイェㇷ゚ / nuytosayep

ヌイトサイェㇷ゚は、糸を巻いておくための糸巻きです。カツラやクルミの木などが使われ、厚さ1cm程度の板をつくり、それを67cm四方に切り、糸を巻く部分は内側を丸みをつけて削りこみ、表にも裏にも思い思いの彫刻を施します。ケモヌイトサイェㇷ゚という針入れがついた糸巻きもあります。糸を巻いてしまうとほとんど彫刻は見えなくなることを知りながら丹念に彫った心は、アイヌの豊かさを感じさせます。

出典:萱野茂『アイヌの民具』52


 

メノコイタ / menokoita

メノコイタは、カツラの木で作った、まな板と鉢とお皿ないしお盆の性格をかね合わせた道具です。全長は80cm前後と大型で、アイヌの主食である鮭が丸々1匹載るサイズです。左側はまな板として、右側には切った物を入れます。骨つきの肉を切るような荒い使い方ではなく、山菜類を刻むなど、もう少しこまかな使い方をします。小型のものは供応(きょうおう)(ぼん)として用いられ、お客が来たときには魚の燻製やゆで肉などを盛り、刃物を添えて出しました。まな板という一番作るのが簡単そうな道具にさえも丁寧な木彫りを施しています。

出典:萱野茂『アイヌの民具』216–217



マタンプㇱ / matampus

マタンプㇱは、男性が頭に巻く鉢巻きで、女性用のヘコカリㇷ゚(刺繍のない黒布)とは別のものです。多くは女性から贈られたもので、山へ狩りに行くときなどに髪がばらばらにならないよう頭に巻いていました。現代では女性も頭に巻くようになり、色彩豊かな刺繍が施されています。

出典:萱野茂『アイヌの民具』67

 

 

ニマ / nima

ニマは木彫りの器の総称で、塗り椀やお皿、どんぶりのような小さなものから、米が20升(約30kg入るような大きな鉢もあります。小さいものは主に食器として使いますが、ポロニマという大きいものは団子を作るときの粉練り用やその中で洗い物をするなど、家庭内の炊事用具として多くの用途を持った便利な道具でした。材料には、センやカツラなど幹が太くて比較的やわらかい加工しやすい木が選ばれます。

出典:萱野茂『アイヌの民具』224–225



タンパクオㇷ゚ / tampakuop

タンパクオㇷ゚は、たばこを入れるための道具です。ニキセリという木製のキセルが紐で繋がっており、ニキセリにたばこを詰めて吸っていました。たばこはアイヌ本来の嗜好品ではありませんでしたが、いつの時代か交易によってアイヌの手に渡り、アイヌの日常にとって欠かせないものとなりました。また、神に祈ったり、祭りをしたり、あるいはまじないをしたりするとき、たばこは神の国へ持たせるお土産としてなくてはならないものです。

出典:萱野茂『アイヌの民具』246–247


 

イタ / ita

イタ(盆)は、昔は器などそれに載せて運ぶものというよりは、直接その上に食べ物を盛って出すお皿として使われるものだったと思われます。アイヌ文様の余白を埋めるように彫られる「ラノカ」といううろこ彫りは、100年ほど前から沙流川地方に伝えられている彫り方です。うろこ彫りには一つの決まりがあり、神にお祈りするときに使うトゥキパスイ(捧酒箸)だけは魚の鱗と同じように一方向に向けて彫りますが、それ以外の道具は左右から中心に向かって必ず向かい合わせになるように彫ります。

出典:萱野茂『アイヌの民具』217


 

テクンペ / tekunpe

テクンペは、手袋の四本指のつけ根と親指の先を切りとったような形の作業用手袋と、手甲の形に沿った美しく刺繍されたおしゃれ用のものがありました。どちらも手首を紐で締めて使います。昔は女性が意中の男性に贈る求愛のしるしとして作られ、相手が身につけてくれれば求愛を受けたことになり、その次に脚絆、鉢巻き、刺繍の着物というように贈り物を重ねていきました。それに対して、男性側からは綺麗に彫刻を施したメノコマキリ(女性用小刀)を贈り、それを女性が腰に下げたときには男性の求愛を受けたことになりました。このように昔のアイヌの社会では、自らの手で作ったものを贈り合って相手の意思を確かめる風習がありました。

出典:萱野茂『アイヌの民具』68–69



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アイヌ工芸を次世代へ残していく

私たち二風谷ワークスは北海道の平取町二風谷で、若手職人に継続的な仕事をつくり、代々受け継がれてきたアイヌの工芸を次世代へ残すというビジョンを掲げ、2022年3月にスタートした企業です。

二風谷に残るアイヌの伝統文化を多角的な視点で取り入れ、デザインや工芸を通じて、未来に繋がる新たな価値を創造する事が私たちの使命です。

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