二風谷在住の木彫り職人·岡本朋也さんとの対談 ~後編~
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前編では、木彫り職人·岡本朋也さんが、札幌大学のウレㇱパクラブ、そして二風谷での伝承者育成事業を経て、木彫りを仕事にするまでの話をお伺いしました。
後編では、岡本さんが実際にどのように作品を作っているのか、もう少し深く掘り下げていきます。
文様は、最初から完成しているわけではない
鳥海:
岡本さんは、作品を作るとき、最初から頭の中に完成した文様のイメージがあるのでしょうか?
岡本:
形を作っている段階から、「ここにはこういう文様を入れよう」というイメージはある程度ありますね。
ただ、最初から全部が決まっているわけではないです。
萱野:
形ができてから、実際にそこへ文様を入れていく?
岡本:
そうですね。
例えばイタ(お盆)みたいなものだったら、まず目立つ大きなモレウ(渦巻き)のような部分を考えて、そこから細かいところを付け足していくことが多いです。
実際に描いてみたり、彫ってみたりすると、「ここはもう少し何かあった方がいいな」とか、逆に「これはいらないな」と思うこともあります。
だから、作りながら変わっていきます。

萱野:
そこは面白いよね。
アイヌ文様というと、完成した文様が先にあって、それをそのまま木に写して彫っているように思う人もいるかもしれない。
でも実際には、職人によって文様の作り方も違うし、その作品の形によっても変わってくる。
岡本:
そうですね。
人によって描き方も彫り方も違います。
僕自身も、いろいろやってみないと分からないと思っているので。
やってみて失敗することもありますけど、その失敗が次の成功につながることもある。
だから、まずはいろいろやってみています。
丸太から、一つの作品になるまで
鳥海:
そもそも木彫りの作品って、どのくらい前から作り始めるものなんですか?
岡本:
材料から考えると、かなり前ですね。
丸太を製材して板にして、それをまず乾燥させます。
乾燥には2~3年くらいかかります。
鳥海:
2~3年もですか。
岡本:
そうですね。
乾燥した材料を使って、そこから作品の形を作っていきます。
例えばイタだったら、まず表面を整えて、ルーターを使って大まかに削ります。
ただ、削ると木が反ったりして動くんです。
それを重しで押さえたりしながら、また1~2週間くらい置いて乾燥させます。
それから、ルーターで削った跡を手作業できれいにしていきます。
萱野:
ここは、実際に作っているところを見たことがない人には想像しにくいかもしれないですね。
「木彫り」というと、最初から最後まで彫刻刀だけで彫っているイメージがあると思うんです。
でも、大きく木を取り除く荒取りまで全部手作業でやっていたら、ものすごく時間がかかる。
だからルーターのような機械も使う。
ただ、機械で削って完成というわけではなくて、その跡を最後は手で仕上げていく。
岡本:
そうですね。
荒取りは今、ルーターでやることが多いです。
機械が当たったところは、全部自分の彫刻刀を使ってきれいに仕上げています。
そこまでできたら、文様を写して、文様を彫っていきます。
鳥海:
文様を彫るのに、どれくらい時間がかかるんですか?
岡本:
大きさや文様の細かさにもよりますけど、3日くらいかかることもあります。
文様を彫って、そのあとに細かい彫りを加えたりして、最後に外側や底も仕上げていきます。
萱野:
そう考えると、お客さんが店で見る一つの作品の後ろに、かなり長い時間があるんですよね。
実際に手を動かしている時間だけじゃなくて、その前に木を乾燥させる時間が何年もある。
木という素材を使う以上、作り手の都合だけでは進められない工程もあります。
藤戸竹喜さんの「荒取り」
萱野:
ちょっと話は変わるけど、木彫り熊で有名な藤戸竹喜さんは、仕事が速いことでも知られているんですよね。
特に、チェーンソーで大まかな形を作る「荒取り」がすごく的確だったらしい。
そこで必要な形を早く取ることができれば、当然、その後の仕上がりも速くなる。
限られた時間の中でどれだけの作品を作れるかというところにも、職人の腕が試されるんじゃないかなと思うんです。
岡本:
藤戸竹喜さんは、例えば丸太の中にある熊の像が自分の頭の中にあって、それを取り出してあげるというか。
余分なところをただ省いていくと、作品になる、というような話を聞いたことがあります。
萱野:
ミケランジェロの話と似ているよね。
大理石の中に最初から像が入っていて、それを取り出すために邪魔な部分だけを取り除いていく、みたいな。
藤戸さんも、丸太の中にもう完成したものが入っているような感覚なのかもしれない。
鳥海:
木を見た時点で、もう見えているんですね。
萱野:
極めた人は、そこまで行くんだなと思いますね。
一定のスピードで、一定のクオリティを
岡本:
僕が二風谷に来て、木彫りを本格的にやるようになって、すごく感じたことがあります。
木彫りって、初めての人でもゆっくり丁寧に時間をかければ、文様をきれいに彫ること自体はできるんです。
でも、職人は、一定のスピードで一定のクオリティを出す。
それがまず「職人」なんだな、と感じました。
萱野:
そうだよね。
一つの作品にどれだけ時間をかけてもいいということではなく、限られた時間の中で作品を作り続けていく。
さっきの藤戸竹喜さんの話にもつながるけど、作品を生み出すスピードも、職人の技術の一つなんだと思います。
完成した作品だけを見ていると、そこに何時間かかったのかは分からない。
でも、仕事として工芸を続けていくためには、技術だけではなくて、一定の時間の中で一定の品質を出せることも必要なんですよね。
平面から、立体の木彫りへ
鳥海:
藤戸竹喜さんの木彫り熊も、本当にすごいですよね。
今にも動き出しそうというか。
岡本:
本当に生きているような熊ですよね。
僕も木彫り熊に挑戦して、立体彫りもできるように今頑張っています。
お手本にしているのは、藤戸竹喜さんの作品が多いです。

藤戸竹喜さんの木彫り熊(ロイズカカオ&チョコレートタウンにて撮影)
萱野:
最近、岡本君のInstagramで熊の顔の作品を見たけど、あれもすごく良かった。
立体物を彫るのも好きですか?

岡本:
そうですね。
立体物もどんどん彫っていきたいです。
最近は、40センチくらいの大きなシマフクロウの木彫りを依頼していただいたので、今は絵を描いたりしながら、どう作るか考えています。
これから頑張って作ってみようと思っています。
萱野:
シマフクロウは、なかなか実物を見る機会もないから難しいよね。
鳥海:
生き物の立体と、平面のものでは、やっぱり全然違いますか?
岡本:
全くと言っていいほど違いますね。
平面と立体では、考え方が全然違います。
使う技術自体は似ているかもしれないですけど、また別の難しさがあります。
伝統的なものと、今の生活で使えるもの
鳥海:
岡本さんは、今後やっていきたいことや、目指していることなどはありますか?
岡本:
まずはアイヌとして、アイヌの伝統的な民具をいろいろ作っていきたいです。
イタだったり、マキリだったり。
アイヌ文様についても、いろいろな文様、自分自身らしい文様をどんどん作っていきたいです。
それから、さっき話した熊やシマフクロウの木彫りのような、大きな立体作品にも挑戦したいです。
二風谷ワークスで扱ってもらっているマグのように、現代の普段の生活で使えるアイヌのものも、どんどん発信して、いろいろな人に知ってもらいたいと思っています。

萱野:
あのマグは、岡本君自身が企画した商品なんですよね。
二風谷ワークスと一緒に企画したものではなくて、岡本君が企画したものを、二風谷ワークスがライセンスを受けて商品として販売させてもらっている。
木彫りの伝統的な民具とは形が全く違うけれど、岡本君が考えた文様やデザインを、今の生活の中で使えるものとして届ける一つの形だと思います。
岡本:
そうですね。
伝統的なものも作っていきたいですし、普段の生活で使えるようなアイヌのものも、もっと発信していきたいです。
それを通して、いろいろな人に知ってもらえたらと思っています。
次の工芸を引っ張っていけるような存在へ
萱野:
岡本君は、ずっと地道に積み重ねができる人だと思っています。
根気強く、一つのことにずっと取り組んでいく。それ自体が一つの才能だと思うんですよね。
初心者から中級者くらいまでは、比較的早く上達できる。
でも、そこからさらに上を目指そうとすると、技術の伸び方はだんだんゆっくりになっていく。
その中でもずっと技術を向上させようと取り組み続けられることが、僕はすごく大事だと思っています。
岡本:
そうですね。
次の工芸を引っ張っていけるように、いろいろなことをたくさん学んで、やっていきたいと思います。
鳥海:
二風谷ワークスのオンラインショップも、以前よりたくさんのお客さんに見てもらえるようになってきました。
岡本さん自身の作品を紹介したり、新しい商品を一緒に開発したり、これからもいろいろな形で取り組んでいけたら嬉しいです。
岡本:
ありがとうございます。
木を削り、形を作り、文様を考え、彫る。
岡本さんの話を聞いていると、「アイヌ文様を彫る」という一言だけでは見えてこない、木彫りの仕事の幅広さが見えてきます。
伝統的な民具を作ること。自分自身の文様を作ること。熊やシマフクロウのような立体彫刻に挑戦すること。そして、自ら企画したマグのように、現代の生活の中で使われるものへアイヌ文様を展開していくこと。
それらは別々の方向にあるものではなく、岡本さんという一人の作り手の中でつながっています。
「次の工芸を引っ張っていけるように」
その言葉の通り、岡本さんがこれからどんなものを作っていくのか。
二風谷ワークスも、その活動を応援しながら、さまざまな形で一緒に仕事をしていければと思っています。
岡本朋也
Instagram:@inuye_nepki