アイヌ文様に意味はあるの?─「魔除け」と言い切れない理由

アイヌ文様に意味はあるの?─「魔除け」と言い切れない理由

「アイヌ文様にはどんな意味があるんですか?」

二風谷ワークスで商品を販売していると、本当によくいただく質問です。

「魔除けなんですよね?」

「渦巻きには意味があるんですか?」

「トゲみたいな形には何か由来があるんですか?」

今回は、そんな疑問について改めて話してみました。


「魔除け」という説は、どこから来たのか

 

鳥海:

アイヌ文様について一番多くいただく質問が、「意味」についてなんです。

特に「魔除けの意味があるんですか?」という質問は本当によくいただきます。

今日は改めて、萱野さんが考えるアイヌ文様の意味やルールについて聞かせてください。


萱野:

そうだね。

たぶんこの質問って、明治の頃からずっと聞かれてきたものなんじゃないかな。

今でも一番多い質問だと思う。

でも、僕は「意味」ってすごく難しいと思ってるんだよね。

よく言われる「魔除け」という話なんだけど、これは昔の研究者がアイヌの人たちに「この文様にはどんな意味がありますか?」って聞いたときに、「魔除け」と答えた人がいて、その説が広く知られるようになったと言われているんだよね。

だから、「魔除け」という考え方があること自体は事実だと思う。

現代でもそう考えて商品を作っているアイヌの人もいるし、それを否定したいわけではない。

ただ、「一番最初に文様を作った人が、本当にそういう意味で作ったのか」というと、それは今となっては誰にも分からない。

だから、「アイヌ文様は魔除けです」と言い切ってしまうのは、ちょっと違うのかなと思ってる。


鳥海:

「魔除けではない」ということではなく、「それだけでは説明できない」ということなんですね。


萱野:

そうそう。

何百年、何千年も前の話だからね。

親から子へ、そのまた子へと受け継がれてきたものだから、一番最初に作った人が何を考えていたかなんて、もう分からない。

だから「これが正解」というものは、たぶんないんだと思う。


萱野茂が話していた「タラ」の話 

 

萱野:

ただ、祖父の萱野茂が話していたことがあって。

昔、女性が赤ちゃんを背負って山へ仕事に行くことがあったんだけど、作業するときは着物を地面に敷いて、その上に赤ちゃんを寝かせるんだよね。

そのとき、「タラ」という紐を使って赤ちゃんの周りをぐるっと囲む風習があったそうなんだ。

悪いものが入ってこないようにする結界のような意味がある、と祖父は話していた。

そして、その考え方が、着物の襟や裾を囲む刺繍、「アイウシノカ」のもとになったんじゃないか、とも言っていたね。

出典:萱野茂『アイヌの民具』124頁より一部撮影)
タラ(ラは小文字):アイヌ語で背負い縄を意味します。


鳥海:

文様そのものというより、「囲む」という考え方が刺繍の意味につながっている、ということなんですね。


萱野:

そう。

でも、これも祖父が伝えていた考え方の一つ。

これだけが正しい、という話ではないと思う。

文化って、そういうものなんだよね。


刺繍は「飾り」だけではなかった

 

鳥海:

あと、前に生地の補強の話もされていましたよね。


萱野:

ああ、そうそう。

例えば東北の刺し子なんかもそうだけど、刺繍って、生地を丈夫にする役割もあるんだよね。

アイヌの切伏(きりふせ)も、布を重ねることで強くしている部分があると思う。

ただ補強するだけじゃなくて、それ自体をデザインにしてしまう。

そういうところがアイヌ文化らしいと思うんだ。

実用性があって、それがそのまま美しさにもなっている。

撮影:萱野茂二風谷アイヌ資料館


文様は、その家らしさでもあった

 

萱野:

もう一つあると思うのは、誰の持ち物なのかが分かるということ。

彫刻でも刺繍でも、作る人によって少しずつ癖が違う。

今みたいに名前を書く時代じゃないから、「これはあの家のものだな」とか、「この人が作ったんだな」ということが自然と分かったんじゃないかな。

だからデザインであると同時に、その家らしさを表すものでもあったんだと思う。


鳥海:

今でもアイヌ文様を見たら誰が作ったか、どの家系なのかわかるものなんでしょうか?


萱野:

そうだね。

ただ、昔は母親から娘へ受け継ぐことが多かったけど、今は教室で先生から学ぶ人が増えている。

だから今は家系というより、先生の技術やデザインが受け継がれていく形になっていると思う。

もちろん、それも文化の変化の一つなんだけどね。


渦巻きには意味があるの?

 

鳥海:

じゃあ例えば、渦巻きとかトゲみたいな形。

ああいう一つひとつの要素にも意味があるんでしょうか。


萱野:

僕は、あまりそうは思ってない。

アイヌ文様には、渦巻きだったり、目の形だったり、トゲのような形だったり、よく使われる要素はある。

でも、「渦巻きだから○○を表しています」という話ではないと思うんだよね。

どちらかというと、それをどう組み合わせるか。

その空間の中で、一番きれいに見える形を作っていく。

そういうデザインなんじゃないかな。


「かっこいい」と思う感覚は昔からあった

 

萱野:

渦巻きって、実はアイヌだけじゃないんだよね。

サハリンの先住民族にもあるし、アムール川流域の民族にもある。

この前、青森の三内丸山遺跡へ行ったんだけど、一万年以上前の土偶にも渦巻きが使われていた。

だから、そのデザインがどこから来たのかなんて、今となっては分からない。

でも思うのは、人間って昔から「これ、かっこいいよね」と思う感覚があったんじゃないかなってこと。

その時代にも、今でいうデザイナーみたいな人がいて、その人が作ったものを周りのみんなが「いいね」って真似して、少しずつ広がっていった。

そんなふうに文化って育ってきたんじゃないかなって思うんだよね。


鳥海:

そう考えると、「意味」を探すというより、「どうしてその形が受け継がれてきたんだろう」と考える方が面白いですね。


萱野:

そうなんだよね。

アイヌ文様って、曲線があったり、いろんな要素が組み合わさっていたりするから、「何か意味があるんじゃないか」と思われることが多い。

でも、別に何か具体的なものを表しているわけじゃない。

昔の人が「これがいい」「これがきれいだ」と思って受け継いできたデザイン。

まずは、そのくらいに考えてもいいんじゃないかなって思ってる。


次回は、そんなアイヌ文様が、長い時間の中でどのように変化し、受け継がれてきたのか。そして、「文化は誰が育てていくものなのか」というテーマについて、さらに話を続けます。

一覧に戻る

アイヌ工芸を次世代へ残していく

私たち二風谷ワークスは北海道の平取町二風谷で、若手職人に継続的な仕事をつくり、代々受け継がれてきたアイヌの工芸を次世代へ残すというビジョンを掲げ、2022年3月にスタートした企業です。

二風谷に残るアイヌの伝統文化を多角的な視点で取り入れ、デザインや工芸を通じて、未来に繋がる新たな価値を創造する事が私たちの使命です。

詳細はこちら