アイヌ文化を使うなら、アイヌも一緒に。─文化の盗用について考える

アイヌ文化を使うなら、アイヌも一緒に。─文化の盗用について考える

大切なのは、「何を使うか」ではなく「誰が使うか」

 

鳥海:

最近、「アイヌ文様を使った商品を作りたい」「アイヌ語をブランド名に使いたい」という相談をいただくことが増えてきました。

その一方で、「文化の盗用になってしまうのではないか」と心配される方も多いんです。

中には、「善意で文化を広めようとしているだけなのに、それもダメなんですか?」という質問もあります。

今日は、そのあたりをもう少し掘り下げてお話ししたいと思います。


萱野:

まず最初に言っておきたいのは、僕は「アイヌ文化を使うこと自体が悪い」とは思っていません。

文化は昔から、お互いに影響を受けながら発展してきたものです。

だから、「他の文化を取り入れる」という行為そのものを否定するつもりはありません。

でも、「文化の盗用」という話になると、一番大事なのは何を使うかではなく、誰が使うかなんです。

ここを抜いてしまうと、この問題は見えてきません。


鳥海:

「誰が使うか」が、一番重要なんですね。


萱野:

そうです。

今、Googleで「文化の盗用」と検索すると、「歴史的な背景や敬意を欠いたまま、支配的な立場にある側が少数派の文化を利益やファッションとして利用すること」といった説明が出てきます。

結局、問題になるのは、相対的に強い立場にある側が、弱い立場に置かれてきた人たちの文化を使うことなんです。

例えば、日本でジーンズを作っても、ほとんど誰も問題にはしません。

アメリカという文化は、経済的にも文化的にも大きな力を持っています。

その文化を日本人が取り入れたからといって、「搾取だ」とはなりにくい。

でも逆の立場になると話は変わります。

以前、アメリカの有名人が「Kimono」という名前で下着ブランドを立ち上げようとして、大きな批判を受けたことがありました。

それは、単に「着物」という言葉を使ったからではありません。

文化的にも経済的にも大きな影響力を持つ側が、日本の伝統文化を自分たちの商品として利用したことに、多くの人が違和感を覚えたからです。

つまり、同じ行為に見えても、立場が違えば意味は変わる。

文化の盗用というのは、そういう問題なんです。


鳥海:

それをアイヌ文化に当てはめると、どうなりますか。


萱野:

アイヌは、日本の中では少数民族です。

そして、北海道では、日本が支配を進める以前から、アイヌ語を話し、独自の文化を持って暮らしていました。

その後、日本の支配の中で、日本語教育が行われ、日本の法律が広がり、アイヌの立場から見れば、自分たちの文化や言葉を奪われていくような歴史がありました。

その歴史があるにもかかわらず、時代が変わった今、「アイヌ文様はかっこいい」「アイヌ語は響きがいい」と、今度は支配した側が自由に使う。

僕は、それは不正義だと思います。

都合が良すぎる。

もっと率直に言えば、泥棒みたいな話です。

もともと相手が持っていたものを取り上げて、あとになって「これは良いから使わせてもらうね」と言っているように見える。

だから僕は、「文化の盗用」という問題は、デザインや言葉の問題ではなく、歴史と立場の問題なんだと考えています。


個人の楽しみとビジネス利用の違い

 

鳥海:

一方で、趣味でアイヌ工芸を楽しんだり、集めたものをSNSに載せたりすることまで否定しているわけではないですよね。


萱野:

そこは全然違います。

個人で楽しむことまで問題にしたいとは思いません。

でも、それが企業の商品になったり、広告になったり、多くの人に発信されるものになったり、利益を生むものになるなら話は変わります。

法律に触れるかどうかではありません。

社会がどう受け止めるか、当事者がどう感じるかという問題です。

だから僕は、和人がアイヌ文化を扱うなら、その中にアイヌの当事者が入っていることが大切だと思っています。

自分たちだけで決めるのではなく、一緒に作る。

それが一番自然で、問題も起きにくい方法だと思います。


辞書だけでは分からない、言葉と文様の背景

鳥海:

その考え方は、アイヌ語の監修にもつながっていますよね。

最近はブランド名やロゴの相談も本当に増えてきました。


萱野:

そうですね。

以前、「アイヌ語だけでブランド名を作ると、あまりおすすめできない場合もある」と話したことがあります。

でも、それは「アイヌ語を使うな」という意味ではありません。

どんな言語にも、言葉が持つイメージがあります。

日本語でも、「縁起がいい言葉」と「縁起が悪い言葉」がありますよね。

アイヌ語も同じです。

辞書で意味だけ調べても、その言葉が文化の中でどう受け止められてきたかまでは分かりません。

例えば、アイヌ文化では、風や虹には、日本人が持つ印象とは違う意味合いがあります。

日本では虹は明るく前向きな印象がありますが、アイヌ文化では必ずしもそうではありません。

風も、病気や災いを運ぶ存在として語られることがあります。

もし、その背景を知らずにブランド名として選んでしまったら、当事者から見れば「なぜ、その言葉を選んだんだろう」と感じることがあります。

だから僕たちは、辞書ではなく、文化まで含めて監修するんです。


借りるのではなく、パートナーとして一緒につくる

 

鳥海:

ブランド名やロゴは、一度決めると何年、何十年と使われるものです。

だからこそ、最初の言葉選びや文様選びがすごく大事なんですよね。


萱野:

そうです。

だから僕たちは、「使わないでください」と言いたいわけではありません。

むしろ、「一緒に作りましょう」と言いたい。

最近は、サッカーチームのロゴや企業とのコラボ商品、ブランド名の監修など、本当にいろいろな仕事をいただくようになりました。

ありがたいことです。

でも、一つお願いがあります。

できれば、企画が始まる段階で相談してください。

全部決まって、デザインも完成して、「最後にお墨付きをください」と言われると、難しいことがあります。

「その文様の使い方は違います」

「その言葉はブランド名には向いていません」

そう思っても、「もうこのまま進めます」と言われたら、こちらも賛成できません。

お互いに悲しい結果になります。

だから、最初から一緒に考えたいんです。


鳥海:

アイヌ文化を使うことを敬遠してほしいわけではないんですよね。


萱野:

そうです。

アイヌ文化を使いたいと思ってくださること自体は、とても嬉しいことです。

だから遠慮しないで相談してほしい。

ただ、「アイヌ文化だから借ります」ではなく、「アイヌの人たちと一緒に作ります」という形になれば、それは文化の盗用ではなく、新しい文化の創造になると思っています。

僕たちは、そのためのパートナーでありたいと思っています。

一覧に戻る

アイヌ工芸を次世代へ残していく

私たち二風谷ワークスは北海道の平取町二風谷で、若手職人に継続的な仕事をつくり、代々受け継がれてきたアイヌの工芸を次世代へ残すというビジョンを掲げ、2022年3月にスタートした企業です。

二風谷に残るアイヌの伝統文化を多角的な視点で取り入れ、デザインや工芸を通じて、未来に繋がる新たな価値を創造する事が私たちの使命です。

詳細はこちら